酔っぱらいの懺悔
わたくしの、人生の「汚点」というものを思い返してみますと、全て「酒絡み」と言いきれるほどなのでございます。
本格的に秋めいてまいりまして、「ああ、もう冬だなあ」と思う頃、かならず思いだすシーンがあるのです。
もうかれこれ15年ほど前のことでございますが、赤坂の職場でタイムレコーダーをガチャンと押したのち、いそいそと居酒屋へ繰り出しまして、上機嫌で千代田線の最終電車に飛び乗ったものでございました。
ご案内の通り営団地下鉄(現東京メトロ)の最終です。超満員の車輌のドアの部分に押し付けられながらへたっていたのですが、少々悪い酒になってしまったようで、終点の代々木上原に着く少し手前で、ついにこみあげてきたのでございます。
身動きは取れませんので、手で口を押さえることすらできません。何回かの嘔吐を飲み込むように切り抜けたのですが、電車がホームに着く寸前、とうとう押さえきれずに口にまで揚がってきたんです。両頬いっぱいをゲロで膨らませて、口蓋筋の力で必死に押さえていたところに、再度の嘔吐の予感。電車はほぼホームに停止。「こりゃ助かったかも、しかし、早く!」と願いましたがドアが開きません。そのときさらに強いコミ上げが・・・
ドアが開くと同時に人の圧力でホームに放り出されたのですが、ついにピューッと、吐瀉物が水鉄砲のような放物線を描いて飛んでしまいました。その吐瀉物の到達点は、25歳くらいの美しいOLの背中。なおも悪いことに新しく買ったばかりのコートでご出勤だったようです。
私は謝ろうと思いましたが、謝ろうにも次から次とゲロが込み上げてまいりまして、それどころではありません。とりもあえずも、ホームのゴミ箱を抱えて連続射出です。
彼女はといえば、恐ろしい顔でわたしを「キッ!」とひと睨みしたのみで、私の吐いているゴミ箱の隣にあった水道栓に跳びつき、冷たい水でザバザバとゲロ付きコートを洗いだしました。
私がゲロを吐き終わってあたりを見回すと、もはや彼女の姿はありません。一言も謝る機会が無いうちにどこかへ消えてしまったのです。弩級の怨みの視線を私につきさしたまま・・・
寒くなってくるいま頃、新しいコートに身を包んだ美しいOLを見ると、いきなり怒鳴られるのではないかと、いまだにビクビクしてしまう、私なのです。
悔い改めよ!